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ブレインズハック2016.02.22

【学ぶ力】第1回:世界大乱闘の時代に必要なもの

日本の未来をめぐる最近の話題は、不安を煽るネガティブものが多くなっています。

 将来消滅する大量の地方都市、破たんする年金と医療保険、増えていく「下流老人」、減らない政府の巨額の借金、経済大国になった中国のアジア支配への野望など、毎日のようにテレビや新聞、雑誌、ネットで目にしたり、人からも聞かされます。

 こんな状況で、いまの日本人や日本企業の社員に対して「不安になるな!」と断言することはとても無理がありますよね。安倍首相も経団連のトップもきっと困り果てているでしょう。

 この不安の根本的な要因は、もちろん「少子高齢化」と「新たな投資先の不在」です。

 私の古巣のソロモンブラザーズというアメリカの投資銀行の同僚に、デイビッド・アトキンソンという元証券アナリストがいます。

 彼はバブル崩壊直後の1990年に日本の不良債権は20兆円に上るという驚くべきレポートを発表し、その後に「日本の大手銀行は4つで十分だ」と銀行の大再編を予言して的中させた著名なアナリストです。

 彼は2014年の著書の中で、世界各国の戦後経済を比較しながら、日本が戦後に急激な経済成長を果たしたのは「爆発的な人口増」によるものだった、と喝破しました(『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』講談社α新書)。

 細部にこだわる日本の職人的な「ものづくり」が大きな原動力になって戦後の日本経済をけん引した、というのは大きな誤解であり、主要先進国のGDPの成長は人口の伸びに比例している、と彼は言うのです。だから、日本のGDPがドイツを追い抜いたのも日本の技術がドイツよりも優れていたからというより、日本の戦後の人口増がドイツよりも大きかったからだと言います。

 余談ですが、中国の人口は日本の十倍以上あるから、一人当たりGDPが低くても、それが少し伸びたので日本を追い抜くことができたのだ、とも言っています。

 人口を増やして経済成長するためにはアメリカのように移民に頼るのがセオリーですが、日本は移民に頼ろうとしないので、諸外国に見習って、裕福な外国人にたくさんお金を落としてもらう「観光立国」として成長するべきだ、と彼は提言しました。

 人口が増やせないなら外国人相手の観光に投資してGDPを成長させれば、観光拠点がある地方も活性化できるという話ですね。これは日本全体の経済の話としては正しいです。政治家と官僚は是非傾聴すべき理論です。

 それでは皆さんに問題です。

 観光業に大きく舵を切れないであろう日本の普通の製造業やサービス業は、いったいどこに投資すればいいのでしょうか?

 答えは「社員」です。

 マイナス金利だからまだ値上がり益が見込めそうな不動産に投資しよう、というのは個人レベルの話で、企業レベルの話ではありません。新たな投資先や開発すべきものや営業先が見つからないなら、それを見つけて大きく育てることができそうな社員に投資するしかありません。社員に投資するということは、優秀な人を採用してさらに育成するということです。すでに十分採用して教育もしている、という方もいるかもしれませんが、いまの日本のほとんどの企業は、やり方と投資の額を見直さないといけません。

 アメリカの企業は「H1-Bビザ」という巧妙な政府の仕掛けによって、外国人の優秀な頭脳を毎年何万人も確保していますが、日本の企業は自前で採用して育成するしか方法がありません。

 ところが、新卒採用も若い中途採用も競争が年々激しくなっており、人数を確保しようとすると質はどんどん下がっていきます。少子化とゆとり教育の影響で最近の新卒のレベルは毎年下がっている、と人事担当の方々も嘆いています。結局、採用してから社内で育て直す必要があるのです。すでに、日本人の採用から外国人の採用にシフトしている企業もあります。

 さらに悪いことに、やがて少なくない仕事がロボットやAI(人工知能)でこなせるようになります。テクノロジーの進歩で、世界中から、異業種からもライバル企業が次々に生まれてきます。

 「ホワイトカラーの労働者の中では、役に立つ見識を提供できる人が勝者になる。つまり、『ヒトをヒトたらしめる』創造的な資質―芸術、演技、ジョーク、ソフトウェアの作成、リーダーシップ、分析、科学など―を備えた労働者である」(ミチオ・カク著「2100年の科学ライフ」NHK出版)。

 アメリカや中国と違って可能な限り社員の雇用を守りたい日本の企業としては、生き残りのために必要な社員の育成は必須です。しかし、それにはとても時間がかかります。

 「人間の脳は大量生産できない。ハードウェアは大量生産してトン単位で売ることができるのに、人間の脳ではそれができない。となると、常識が未来の通貨になるだろう。商品の場合と違い、知能資本を生み出すには、人間を育成し教育しなければならず、これには個人の数十年にわたる努力が要る」(同上)

 世界中で有名な古いことわざに、次のようなものがあります。

「魚を一匹やれば一日食いつなげるが、魚の取り方を教えてやれば一生食える」
Give a man a fish and you feed him for a day; teach him how to fish and you feed him for a lifetime.

 あの「世界に誇る液晶のシャープ」でさえ経営が傾く時代です。昔の「魚の取り方」を知っていても、この激動の時代を食いつないでいくことはとても難しいのでしょう。

 本コラムでは、グローバル企業がテクノロジーを武器に世界中で大乱闘を始めた時代に、日本企業の社員が知るべき「魚の取り方」とは何か?を掘り下げていきます。

 いまの日本には不安が増長する話題ばかりですが、どれだけ日本の将来に不安になろうとも、いまの時代を生き抜くすべを知って自ら行動すれば、大事な家族と仲間と自分は守れますよね。

 本コラム全体を貫くキーワードは「学ぶ力」です。

⇒次回に続く

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