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ブレインズハック2016.06.10

【学ぶ力】第4回:アメリカ流は要注意

本コラムは「学ぶ力」というタイトルですが、ビジネスマンは学校や入試のテストと違って正しい答えが存在しない仕事社会に生きています。そして、日々降りかかる困難の中を自ら考えながら行動して成果を出すことが求められます。そのために新しい知識や技術やノウハウや考え方が必要ならば、自ら主体的に、他人や本やセミナーなどから学んで、自分の仕事に活かさなければなりません。

ところが最近は自分の仕事のPR目的じゃないか、と思ってしまうような本も多いので、内容はよくよく慎重に吟味する必要があります。

というのも先日、題名がとても衝撃的な本を見つけて読んでみたからです。

「日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?」(ロシェル・カップ著:クロスメディア・パブリッシング刊)という本です。

最近時々耳にする「社員のエンゲージメント」を取り上げて、「日本企業の社員のエンゲージメントは、どの調査結果を見ても世界の中で非常に低いので、日本企業の人事システムは世界に合わせてどんどん変えるべきだ」という論調でした。

この著者によれば、「エンゲージメント」というのは「活力、献身、没頭などに特徴付けられる、仕事に関連するポジティブで充実した精神状態」であり、社員にやる気を起こさせるためにとても重要だ、ということです。

「エンゲージメント」が高い社員は、仕事に対するやる気が非常に高く、会社を辞めない傾向が高く、離職率の低下につながり、会社と製品・サービスの支持者として熱心に営業し、優れた顧客サービスを提供するそうです。

逆に「エンゲージメント」が低い社員は、やる気がなく、仕事にも関心がなく、必要最低限のことしかせず、欠勤が多く、事故や品質問題を起こしたり、顧客を遠ざけたり、周囲のモラルを低下させる原因になるそうです。

正直、とても内容が薄っぺらで非常に残念な本でした。外国企業の事例はいくつか勉強になりましたが・・・。

報酬の上昇を伴ったキャリアアップを、転職を通じて積極的に実現していこうとするアメリカ人とは違って、日本のサラリーマンのほとんどは、できれば同じ会社で長く勤めたい、できれば転職はしたくはない、と考えています。いまの給料・肩書や満足感・やる気・モチベーション・エンゲージメントといった単純な理由だけで働いているのではありません。

解雇が容易なアメリカ企業とは異なり、会社の業績が苦しくても雇用を維持しようとする日本企業のサラリーマンは、まずは「責任感」を基礎にして働いている人が多いのではないでしょうか。たとえ現在の仕事に不平不満があろうとも、長い目で自分の人生と自分に関わる人や組織との良好な関係を考え、家族への責任、会社の上司や部下や同僚への責任、お客様や取引先への責任を感じながら、一所懸命に真面目に働いていると私は感じるのです。

そして、一所懸命に真面目に働いているうちに仕事上の成果が生まれて、大きな仕事ができるようになって、徐々に仕事への興味が湧いたり、仕事の本当の意味が分かったり、やる気が高まったり、自分自身の目標ができたりする人が増えてくるのが普通なのではないでしょうか。そういう人がだんだん組織の上の方に押し上げられてくるのが、日本企業の特徴だと思います。

「部下のモチベーションが低いので業績が上がらない」と悩んでいる上司が多いという話を最近よく聞きますが、それは部下の成果を上げられない上司の言い訳なのではないでしょうか。成果が上がればやる気は徐々に高くなるのに、アメリカ流にモチベーションを高くしないと成果が上がらないと勘違いしているのです。

もし、これまでの日本人の働き方に興味がある方は、20年前に出版された本ですが、次の本をお薦めします。

 


 

できる社員はやり過ごす

 

できる社員は「やり過ごす」(日経ビジネス人文庫)

高橋伸夫著

日本経済新聞刊(2002年7月)

※ネスコ文春刊(1996年10月)は現在電子書籍版のみ


 

 

本の題名からはまったく想像できないのですが、従来の日本企業の中間管理職の仕事と日本人の働き方について、非常に示唆に富んだ名著です。20年経ってもいまだに色あせない内容は、すごいの一言です。

日本のサラリーマンの仕事への「責任感」がなぜ発生するかという理由について、私もいろいろ考えてみましたが、未来のために今を犠牲にする日本企業や日本の社員の「未来傾斜性」という著者の概念はとても参考になりました。

「反復囚人のジレンマ」の例をあげて、その場かぎりの「いま」の充実感・快楽・利益を求めるアメリカ流の刹那主義型のシステムと、10年後・20年後・あるいはもっと先を考えて、いまは目先の利益ではなく多少我慢してでもしのいで、未来を残すことを考えた日本の未来傾斜型システムの違いを、著者はうまく説明しています。

日本経済の長い低迷が続いて、他社に吸収される会社や海外企業に売却される会社も増えましたので、自分の会社の将来への見通しが不安に変わった人もいるでしょう。転職市場が大きくなったので、やりたい仕事を今すぐやりたい、と強く思う人も増えたかもしれません。ゆとり世代・さとり世代と呼ばれる、打たれ弱い、仕事よりもプライベートを優先する傾向が強い人たちも入社してきています。

もちろん、日本企業のマネジメントの仕方は変えていかなければならない部分はあります。日本は少子高齢化・人口減ですから、グローバル企業になるために日本でも外国でも外国人をどんどん雇用しなければなりません。そのためには、海外の事例もよく学んで徐々に経営を進化させていけばいいと思います。

しかし、日本企業の多くが長期の未来志向で経営を続け、きちんと利益を生みながら日本人の採用を続けていく限り、働き方は変われども、日本で働く日本人の思いの大勢は変わらないのではないでしょうか。

外国人が書く本は、思考のフレームワークや事例、ニュービジネスの発想についてはとても新鮮で参考になるのですが、働く人の問題は複合的で根が深いので、特に注意して吟味するのがいいですね。

 

⇒次回に続く

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