トピックス
TOPICS

ブレインズハック2016.06.30

【学ぶ力】第5回:資本主義社会の終わりを想像できますか?

社会と経済の流れを予測することは、経営者や経営幹部のみならず経営企画や研究開発の人たちにとっては必須の仕事ですが、それが50年先の未来予測となると、遠すぎてよく分からないし、向こう数年間の業績には影響ないから必要ない、と考える人も多いでしょう。

ところが、今まさに世界の資本主義社会が巨大な転換期にいて、50年後の未来に向けて世界のトップの政治家や企業が動き始めているとしたらどうでしょうか。

 


 

限界費用ゼロ社会

 

限界費用ゼロ社会

<モノのインターネット>と共有型経済の台頭

ジェレミー・リフキン著・柴田裕之訳

NHK出版刊(2015年10月)


 

「限界費用」というのは経済学の用語で、モノの生産量を1単位増やした時に増加する費用のことです。限界費用がゼロになるということは、固定費がいくらかは掛かっているにせよ、いくら生産しても追加費用が掛からないので、モノの値段は限りなく無料に近づいていくということです。

すでに出版や音楽業界では限界費用ゼロの現象が起きていますが、著者はこの「限界費用ゼロ革命」があらゆる分野に拡がると予測しています。

『ますます多くの情報がほぼ無料で何十億人という人の手に渡るようになってくるにつれ、限界費用がほぼゼロとなる現象はすでに、出版、通信、娯楽の各業界に大打撃を与えている。(中略) すでに世界中で何百万という「生産消費者」(プロシューマ―:自らが消費するものの生産者となった消費者)が、自ら使う環境に優しい(グリーン)電力を限界費用がほぼゼロで生産している。約10万人が趣味で3Dプリンターを用い、限界費用がほぼゼロで独自の品物を製造している。その一方で、限界費用がほぼゼロで運営されている無料の大規模公開オンライン講座MOOC(ムーク)には600万人の学生が登録して、世界でも有数の教授たちの教えを受け、大学の単位を取得している』

『IOTは、統合されたグローバル・ネットワーク上であらゆるモノをあらゆる人に結びつけるだろう。(中略)(IOTでリアルアイムに得られた)ビッグデータは高度な分析手法を用いて処理され、予想用のアルゴリズムに転換され、熱力学的効率を改善する自動システムにプログラムされ、生産性を劇的に上げ、経済の全般にわたって、多様な財とサービスの生産と流通の限界費用をほぼゼロにまで引き下げる』

『ビジネス界の守旧派は、全員ではないにせよ多くが、未来の世界で経済生活がどう進展するか想像できない。そこでは、財とサービスの大半がほぼ無料となり、利益が消滅し、所有権が意味を失い、市場は不要となる』

 

著者は、①コミュニケーション媒体、②エネルギー体制、③輸送手段の3つのインフラが新しくなったことで、社会は大きく変革してきたと言います。

第一次産業革命では、石炭と蒸気を動力源とする印刷・電信、工場・鉄道。第二次産業革命においては、石油と電気を動力源とするラジオ/テレビ・電話・自動車。

いま進んでいる第三次産業革命では、太陽光や風力等の分散型の再生可能エネルギーと、自動化されたロジスティクス・輸送手段を管理するために、インターネットがコミュニケーション媒体となりつつあるそうです。

世界中で大議論になっている低成長の長期化の理由について、著者はこの第三次産業革命による大変革が要因の一つだと言います。

『財やサービスを生産する限界費用がさまざまな部門で次から次へとゼロに近づくなか、利益は縮小し、GDPは減少に転じ始めている。(中略)かつては購入していた財を、共有型経済の中で再流通されたりリサイクルしたりする人が増えたため、使用可能なライフサイクルが引き延ばされ、結果としてGDPの損失を招いているのだ。しだいに多くの消費者が、財の所有よりも財へのアクセスを選択し、自動車や自転車、玩具、道具といったものの使用時間に対してだけお金を払うことを好むようになりつつあり、これがまたGDPの減少につながっている。一方、自動化とロボット工学、人口知能(AI)のせいで、何千万もの労働者が職を失い、市場での消費者の購買力は縮小を続け、さらにGDPが減少する。それと並行してプロシューマ―の数が増え、市場における交換経済から協働型コモンズにおける共有型経済へと経済活動が移るにつれ、GDPの伸び率はさらに縮まっている』

 

著者は、2005年にドイツのメルケル首相に招かれた時にこう言ったそうです。

『IOTはピアトゥピアという特性を持っているので、ドイツの中小企業や社会的企業、それに個人が集まって財やサービスを生み出し、直接交換することになり、第二次産業革命を通してドイツで限界費用を高く保ち続けてきた中間業者の生き残りを一掃できるだろう。経済活動の仕組みと拡がり方にかかわるこのテクノロジー上の根本的な転換は、少数の人から多数の人へと経済力が移り、経済生活が大衆化する大規模な変化の前兆なのだ。ただし、第二次産業革命から第三次産業革命への移行は一夜にして起こるわけではなく、30~40年をかけて実現することを忘れないように』

 

メルケル首相はこう答えたそうです。

『私はドイツのために、この第三次産業革命を実現させたいです』

その理由は、第三次産業革命のインフラは分散型・水平展開型なので、自国の政治地理に打ってつけだと。ドイツは連邦であり、各地方がそれぞれある程度の自治権を持ちながらも協働して、ドイツ全体のコミュニティの福祉を増進してきた歴史を持っており、デジタル方式でつながりネットワーク化したドイツ、という発想はドイツ国民にはおおいに納得がゆくものだ、と首相は言われたとのことです。

 

Airbnb・Uberに代表されるシェアリング・エコノミーや、インダストリー4.0・IOT・3Dプリンターなどの新しい用語は、ネットや雑誌や新聞でよく解説を見かけますが、その背景となる世界経済の歴史については、あまり語ってはくれません。

この本は封建時代以降の歴史もしっかり書いており、500ページ以上あるので、読むのは疲れますが、働く人と経済の未来を考えるにはとても良い題材です。

著者は、日本の未来についての最終章でこう述べます。

『労働人口が減れば必然的に日本の生産性が落ち、成長能力が損なわれるというのが一般的な見方だ。だが、歴史の流れは人口動態で決まり、将来性があるのはつねに、人口再生産率が最も高い社会であるという考え方はもはや通用せず、高度に自動化されたスマート経済においては、人口動態あるいは人口再生産率は、経済的健全性の唯一の指標ではなくなるかもしれない。

第一次・第二次産業革命の両方で総効率と生産性を向上させた日本の幅広い歴史的経験は、日本が舵を切り、第三次産業革命を迎え入れるためのスマートIOTインフラへと向かう上で、強みとなりうる。

資本主義市場と共有型経済の両方から成る、完全に自動化されたハイブリッド経済の創出は、極限生産性がもたらすものであり、今後、より少ない人口で比類のないほど質の高い生活を享受することを可能にしうる』

 

さて皆さんの子供たちは、将来どんな仕事をすることになるのでしょうか?

⇒次回に続く

CATEGORY